Far Cryの別解釈『Far Cry Instincts: Predator』のプレイ感想。

FPS

美しい大自然を舞台に自由度の高いゲリラ戦を楽しむことが出来る『Far Cry』シリーズ。現在は最新作である『Far Cry 6』まで発売されるほどの大人気FPSシリーズで、ナンバリング以外にも多くの外伝作品が誕生しています。

今回紹介する『Far Cry Instincts: Predator』もそんな外伝作品の1つです。本作は2005年に家庭用ゲーム機で発売された初のFar Cryシリーズ『Far Cry Instincts』と2006年に発売された続編『Far Cry Instincts: Evolution』の統合バージョン。XboxからXbox360へと世代が変わり、グラフィックが大幅に強化されています。

ゲーム自体は『Far Cry(2004)』が下地となっています。ですが、当時のゲーム機のスペック制約もあり、特徴的だった広大なマップではなく1本道スタイルのゲームへと変貌を遂げています。そのようなこともあり、Far Cryシリーズの中ではかなり異色な作品なのです。

とはいえ、FPSとしては非常に優れた作品です。Far Cryのエッセンスを残しつつ、上手く1本道に落とし込んだゲームプレイはかなり楽しめました。本作特有のゲームシステムも多く存在し、”外伝作品”と片付けるにはあまりにももったないです。

『Far Cry』らしくない

本作は2006年にUBI Softから発売されたFPSゲーム。開発スタジオは後のFar Cryシリーズを担当するUbisoft Montrealです。PCで発売された『Far Cry (2004)』を下地に、Xbox向けに開発された作品です。大元のストーリーやシステム、グラフィックは継承しつつ、箱庭スタイルから1本道スタイルへとゲームプレイが大幅に変更されています。

Far Cryシリーズ最大のウリである「広大なマップと自由度」がなくなり、ゲームとしてはよくある1本道FPSになってしまいました。そのためシリーズを遊んだことがある人からすると、全く異なった印象を受けるかもしれません。

また、現在のFar Cryシリーズとは世界観も異なります。一応『Far Cry(2004)』には人間の兵士とトライジェンと呼ばれるミュータントが登場しましたが、今作では恐竜モドキやゾンビ兵士、大型クリーチャーなどよりB級映画色が強くなっています。今のFar Cryシリーズでは怪物すら出てきませんから、本作の世界観はかなり独特です。

ゲームプレイや毛色の異なる世界観の影響で、本作は非常にFar Cryらしくありません。

新要素が多い

ゲーム自体は1本道スタイルに変化していますが、戦闘システムは本家を上回る楽しさがあります。基本は『Far Cry(2004)』を踏襲していますが、アクションが多数追加されています。細かな点を挙げればキリがありませんが、大きな差を感じたのは以下のアクションです。

罠の設置

本作ではブービートラップが追加されています。木に設置することが出来る罠で、近づいた敵を一撃で倒すことが出来ます。何個でも設置することが出来るため、近くの木々に大量設置して敵をおびき寄せれば銃を使わずに制圧が可能です。設置にかかる時間も短いため、汎用性はかなり高いです。中盤からは対人地雷も設置可能になり、組み合わせるとかなりの数の敵を簡単に対処できます。

二丁持ち

ハンドガンとサブマシンガンを2丁持ちすることが可能です。火力が2倍になりますがその分弾薬の消費も多くなるため、タイミングを見極めて使用すると効果絶大です。見た目も華やかなで個人的にはかなり好きなアクションです。

超人パワー”フェラルアビリティ”

本作最大の特徴はプレイヤーを強化する”フェラルアビリティ”の存在でしょう。ゲーム序盤で血清を打たれたことにより、主人公ジャック・カーバーは超人的な力を手にします。敵の臭いや痕跡を視覚化・暗闇でも暗視可能になる他、驚異的な移動速度やジャンプ力、格闘攻撃力を自由に使いこなせます。また、体力もゆっくりですが自動回復していきます。これらを使用するにはゲージを消費する必要がありますが、アイテムを入手や時間経過で回復していきます。

このフェラルアビリティにより、従来のFar Cryシリーズにはないアグレッシブな戦闘を体験することが可能です。高速で走りながら敵を翻弄したり、大ジャンプで高所を取ったりと、人間離れしたアクションを使用した戦闘は非常にユニークです。個人的なお気に入りは、超スピードで走りながら固定機銃を撃ちまくるプレイです。

この体験は姉妹作品である『Crysis』に近い感覚があります。クロークこそありませんが、高速移動や大ジャンプ、格闘攻撃はNanosuitsの能力と瓜二つです。『Crysis』の発売が2007年なので、もしかしたら本作が影響を与えた可能性もありそうです。

多彩な戦闘スタイル

先ほど述べた通り、本作には様々なアクションが追加されています。これにより、Far Cryシリーズの醍醐味である「好きな戦闘スタイルで楽しむ」という魅力を大きく引き出すことに成功しています。罠を多用したゲリラ戦や、フェラルアビリティを駆使したドンパチ、裏に回り込むステルスプレイなど戦い方は自由です。複数の選択肢があり、それを肯定してくれるのは実にFar Cryらしいです。

しかし、結局はドンパチ1つの戦い方になってしまうことが最大の問題です。以前の『Far Cry(2004)』の記事でも述べましたが、ステルス部分の作りがかなり大雑把なせいで、ステルスプレイをする気になれないのです。発見されるまでの時間が早すぎる、どの距離までなら探知されないのかが分からない、等々の問題のせいで、ステルスが非常にしづらくなっています。その点『Far Cry 3』以降のシリーズでは探知メーターが実装されており、ステルスプレイがしやすくなっています。ステルス部分のメカニクスがもう少し分かりやすければ、ステルスプレイという選択肢が増えるかもしれません。

また、1本道というゲームシステムの特性上、戦闘スタイルが限られるという点も問題です。Far Cryシリーズは広いマップを活かして好きな場所から好きな方法で敵と戦えるところが魅力です。しかし、ゲーム進行が1本道になったことで、その魅力が半減してしまっているように感じました。特に一部のステージはひたすら沸く敵を倒しながら進むだけという場面もあります。これではFar Cryではなく、ただのB級FPSです。

しかし、全部のステージがそうというわけではありません。大半のステージは1本道ながら複数のルートが用意されています。茂みに隠れて側面を取る、機銃を強奪して撃ちまくる、高台から狙撃するなど、様々なアプローチで戦えるようになっていたのはFar Cryらしかったです。さらに『Far Cry Instincts: Evolution』の最初のステージはかなりマップが広かったです。それぞれの島にある3つの目標を攻略するというもので、水上バイクを使って好きな島に上陸し好きな作戦で戦えるという点は、まんま『Far Cry(2004)』のゲームプレイです。残念ながら広大なマップを活かしたゲームプレイを体験できるのはこのステージのみですが…。

余談ですが、Far Cryの広大なマップを活かした戦闘を体験できるのは『Far Cry 2』までだと思っています。『Far Cry 3』以降は単にオープンワールドになっただけで、メインクエストの戦闘面はかなり制限されています。ミッションエリアが設けられているため、好きな場所から攻撃できるというのはほぼなく、1本道プレイに近い戦闘の繰り返しです。一方基地攻略は割と自由度が高めに設定されているのがFar Cryらしいですね。

広大なマップを利用した攻略自由度のたかい箱庭系のゲームは少なくなっているように感じます。ミリタリーシム系だと意外とあるのですが、最近のFPSは『Far Cry 3』以降のシリーズと同じ、ただのオープンワールドゲームです。これに関しては確か『The Citadel』の開発者の方も同じようなことをおっしゃっていた記憶があります。単にマップが広いだけで、その広さがゲームプレイに繋がっていないのもどうなのかなと、私自身もひしひし感じております。

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国産FPSの可能性

ビデオゲーム屈指のジャングル表現

家庭用機という性質上、グラフィックがPC版よりも劣ってしまうのは仕方のないことです。しかし、本作は『Far Cry(2004)』のグラフィックに負けずと劣らないものに仕上がっています。CryENGINEを活用したジャングルの表現は非常によくできています。むしろ、本家より格段に雰囲気がよいとまで言えます。

なぜなら本作のジャングルは非常にそれっぽく作られているからです。本家は鮮やかな緑で表現された生命力のあるジャングルが印象的です。一方本作のジャングルはただ鮮やかなだけではなく、時に美しく、時に不気味さを感じさせるなど、表情が豊かなのです。

霧に覆われた不気味な姿、楽園ような鮮やかな姿、月明かりに照らされた幻想的な姿、緑の瘴気が蔓延する土臭い姿。舞台は同じジャングルですが、ステージごとに見せる姿が全く異なり、まるで生きているかのような印象を与えます。ここがただ綺麗なだけではない、それっぽいジャングル表現に繋がっているのだと思います。

このように本作は舞台となるジャングルの表現に力を入れているため、それだけでゲーム自体が楽しくなります。FPSに限らずゲームにおいてマップはプレイヤーが入る別世界。だからこそマップは美しくなければなりません。その点において『Far Cry Instincts: Predator』はかなり作り込まれたマップデザインといえます。

アシスタント機能のおかげで撃ちやすい

PS2・Xbox時代のFPSと聞いて思い出すのは、あのヌメっとした加速度が気持ち悪いエイム操作。近年の家庭用ゲーム機のFPSゲームは飛躍的に操作感が向上していますが、どうしても2006年あたり以前の家庭用FPSの操作は好きになれません。

本作もそんなヌメっとした操作感をしています。しかし、優秀なエイムアシスタントのおかげでかなり改善されているのです。敵の近くにクロスヘアを合わせると自動的に感度が下がるエイムアシスタントはもちろん、ある程度銃弾を誘導してくれるシューティングヘルパーという機能が最高でした。多少クロスヘアと敵がズレていても銃弾が敵に追従するというもので、細かなエイムが難しい当時のFPSの気持ち悪さを感じずに済みました。今のFPSにあったら強すぎますが、昔の操作が難しいFPSでは嬉しい機能です。

昔のFPS特有の細かい欠点

大きな不満点はありませんが、以下の細かな点が気になりました。

おバカなAI

敵AIのおバカさが残念でした。全体的には割とまともなのですが、戦闘時に少しでも距離を取ると途端に棒立ちしてしまうことが多かったです。また、グレネードをよく投げてくるのですが、大半が近くの障害物にあたって自爆するという場面が多々ありました。

一部ステージの理不尽な敵沸き

一部1本道部分での理不尽な湧きが気になりました。特にInstictsパートの鉱山と最後の島は理不尽すぎる無限湧きのオンパレードです。鉱山では狭い坑道を通る場面が何度もあるのですが、制圧した通路を通る際に数メートルという距離で真後ろから敵が沸くことが何度もありました。時間経過で復活ならまだしも、制圧したばかりのエリアから敵が沸くのはゲームとしてどうなのかなと思います。最後のゾンビ兵士が無限湧きする島では強行突破することでしか進行しないため、シューティングとしては退屈すぎます。

まとめ:素晴らしいFar Cryの”別解釈”

ナンバリングタイトルとはかけ離れたゲームプレイながらも、美しいジャングルで繰り広げるFar Cryらしい戦闘がたまりません。本家では体験できない超能力を使用した戦いも大きな魅力。ぱっと見はFar Cryらしくないけど、中身はしっかりとFar Cryの遺伝子が備わっています。Far Cryを別解釈した、非常に優れているビデオゲームです。

本作は日本未発売の作品です。今回のプレイではXbox Series Xの地域設定を北米にし、ストアからダウンロード版を購入しました。セール時には500円ほどで購入できるため、気になる方は是非プレイしてみてください。

著者近況:レトロFPS・洋ゲー・ホラーゲームを主軸とした、ゲームレビュー系YouTubeチャンネルを作成しようか検討中。

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