そこに愛はあるんか?『Easy Red 2』のプレイ感想。

FPS

グラフィックだけ一丁前で中身がスカスカなゲームに見習ってほしい1作。本作『Easy Red 2』の見た目はかなり安っぽくて、Steamに転がっている駄作の1つに見えるかもしれません。しかし、実際にプレイしてみると、たっぷりの愛情をこめて作りこまれた大規模WWⅡFPSだということが分かります。

私が本作を購入したのは約1年前。インディーの大規模系FPSということで期待してプレイを始めたのですが、いざ蓋を開けてみて現れたのはあまりに低品質すぎるFPSゲームでした。特に主観視点から見える腕が折れ曲がっているモデリングが見えた瞬間「あ、ダメだなこのゲーム」と感じ、プレイをたったの20分ほどで断念してしまいました。

腕折れてるよ…。

そこから約1年半が経ち、今度は海外のFPS系実況者が本作を取り上げているのを目にしたのです。そこでは2020年のリリース当初とは比べ物にならないほどこのゲームが進化していると語られていました。コメント欄も称賛の嵐です。そしてノルマンディー上陸作戦の壮観なゲームプレイ映像が決定打となり、本作を再度遊ぶことを決意したのです。

驚異の個人開発FPS『Easy Red 2』

『Easy Red 2』はイタリアの個人デベロッパーのMarco Amadei氏が手掛けたWWⅡシューター。3Dモデリングや音楽は一部協力とのことですが、ゲーム部分のほとんどは彼が1人で制作したそうです。

本作のゲームプレイは『Battlefield』シリーズのブレークスルーや、『Rising Strom』シリーズのテリトリーのような、攻守に分かれて行う大規模戦が主軸となっています。歩兵のみならず、戦車や戦闘機が入り乱れる迫力満点の戦いが本作の大きな魅力の1つです。オンライン対戦やPvEも実装されていますが、今回はソロでPvEモードを全ステージクリアしました。

とにかく上陸させられる

WWⅡシューターとしてはステージ数も相当豊富です。アンツィオ・クェゼリン・コス島・スターリングラード・オーバーロード作戦の全5つ(後者2つはDLC)、それぞれに約10~20のミッションが入っているという特大ボリュームとなっています。登場する勢力や兵器もかなり多く、これを本当に1人のデベロッパーが手掛けたとは思えないくらいの量でした。割と長くFPSを遊んでいる私ですら見たことのない銃や兵器、舞台が登場するのですから、相当マニアックな方でも楽しめると思います。

地獄絵図

意欲的なゲームシステムと戦争感のあるゲームプレイ

チープだが処理が軽いため大量のAIがいてもOK

ハッキリ言うとグラフィックはチープです。よく訓練されたFPSゲーマーでも裸足で逃げ出したくなるほどのショボさです。以前の私もそれが理由で本作を断念しました。

しかし、『Easy Red 2』にはAAA作品が持つ以上の面白さを持っていると断言できます。何がそこまでこのゲームを面白く感じさせるのか。それは本作が愛情たっぷりに作り込まれているからです。

まず感動したのは、ゲーム全体の戦場感が凄まじいことでした。大量の兵士がうごめき、戦車や戦闘機が入り乱れ、マイケル・ベイ映画並みの爆発が起きまくる。『Battlefield』や『Rising Strom』で体感できるお祭りのような一進一退の戦いが体感できるのです。Bot戦でもAIがきちんと機能しており、戦闘機や戦車も全力で殺しに来るため、オンライン対戦並みの激しい戦場に浸ることが出来ました。

これまできちんとした戦争ゲームを体験するにはオンラインプレイヤーとの対戦が必須だと思っていました。しかし、本作はBotが真面目に戦ってくれるため、何の気負いもせずにゲームプレイを楽しむことが出来ます。これもうプレイヤーいらないのではと思わせるほどの出来でした。(若干のおバカさはありますが、プレイに支障はありません。)

ステージごとの演出もかなり凝っています。『プライベート・ライアン』の冒頭を彷彿とさせる上陸作戦から、初代『Call of Duty』でも描かれたグライダーを使った強襲、『遠すぎた橋』で描写されたような圧巻のパラシュート降下など、スケール感を感じさせる演出がとにかく上手いのです。特にノルマンディーのDLCでは上陸作戦だけで6つもあります。個人制作のゲームでここまで大規模なスケールのFPSを作っているというのは本当に凄いことです。

ゲームシステムも様々な要素が盛り込まれていて意欲的です。大手FPSのシステムを上手く取り入れつつ、さらに深掘りすることでゲームの奥深さを引き出すことに成功しています。

操作中や死んだ場合にいつでも分隊員を切り替えられる分隊システムは『Enlisted』そのままです。分隊長が砲撃等の支援を要請し、通信兵が要請する仕組みは『Rising Storm』です。戦車や戦闘機を1人でも動かすことが出来るのは『Battlefield』ですね。

個人的に革新的だなと感じたのは治療システムとインベントリシステムです。本作は基本1発で即死なのですが、ダメージ箇所によっては包帯による止血が必要だったり、ダウン状態になったりすることがあります。このダウンした兵士は衛生兵が持つアイテムで蘇生が可能なのですが、蘇生するには表示された全部で3つのアイテムのいずれかを使用する必要があります。ただワンボタン押すだけの蘇生ではなく、蘇生するための冷静な判断力が求められる点がユニークだと感じました。

また、ダウンした兵士はFキーを長押しすることで引きずることが可能です。これにより、負傷兵を掩蔽豪まで引きずってから蘇生処置を行うというリアリティのあるプレイが楽しめます。これは『BattleBit Remastered』にもある要素ですね。この”引きずる”という動作があるだけで、味方の蘇生にゲーム的な駆け引きが生まれるのです。煙幕を張ってその場で起こす、もしくは援護射撃を頼んで安全地帯まで引きずるなど、戦争ゲームらしさが出ます。インディーのタイトルがこの作り込みをしているのに対し、AAAのゲームがなぜ採用しないのかが謎です。

今助けるぞ戦友!
頭上のアイコンで使用するアイテムが分かる

インベントリシステムもこの手のゲームではあまり見ないものです。バトロワでアイテムを漁る時になどに目にするものを想像すれば分かりやすいと思います。本作ではキャラクターごとにインベントリが存在し、そこに武器や装備を保管しています。つまり、死んだ兵士からアイテムを取ることが可能なのです。このインベントリシステムにより、ゲーム的な戦術性が高まっていると感じました。弾がなくなったら味方の死体から漁ったり、敵の戦車を破壊したいのなら対戦車グレネードを探すといった具合に、その場の物資でしのいでいく泥臭い戦いが味わえます。なんなら死んだ衛生兵から治療キットを取得して衛生兵の任務を引き継ぐことだってできます。

艦砲射撃は色々散らかる

個人的にインベントリシステムのありがたみを痛感したのは、包帯がなくなった時です。長く最前線で戦っていると被弾回数も多くなり、包帯が底を尽きます。そういった時にゴロゴロ転がる兵士の死体から包帯を”拝借”する瞬間、何とも言えない背徳感や戦場の残酷さを感じるのです。まるで『西部戦線異状なし』で死体からブーツを取る兵士のように、生きる残るために物資を漁る行為は、他の戦争ゲームではあまり体験できない血生臭さがあります。個人的にこのゲームの戦場感はどの戦争ゲームよりも残酷さを感じます。『WW2: Bunker Simulator』の記事でも述べたように、直接的なゴア表現よりも、死体から物資を漁るという背徳感の方が残酷な戦場をより実感できるのです。

貰ってくぜ

他にもマガジン管理や降伏システムなど、AAAにはない意欲的なゲームシステムがいくつも存在します。いずれも開発者の「こんなゲームを遊びたい」という熱意があるからこそ実現したものだと思います。

乗り物だけでも十分楽しめる

私は普段、この手のゲームでは乗り物を使用しません。なぜなら操縦が難しく、なおかつ習熟するまで他のプレイヤーに迷惑をかけてしまうからです。しかし、本作はBot戦ということで戦車や戦闘機なども使ってみました。

結論としては、乗り物部分だけでも十分元が取れるくらい楽しめました。乗り物の操作感や戦闘システムが非常によく出来ていて感心してしまうほどでした。

まず操作感ですが、戦車に関しては『Battlefield』シリーズよりもリアル寄りです。挙動も重く、HE弾やAP弾などを使い分ける細かさがあります。ダメージシステムもかなり作り込まれています。攻撃箇所によって機能停止に陥らせたり、乗組員を負傷させたり、エンジンを狙って派手に吹きとばすこともできます。リアル寄りなシステムも相まって、ゲーム中は遠距離からお互い撃ち合うリアルなプレイを楽しむことが出来ました。また、撃破された際には乗組員を撤退ラインまで後退させることで再度乗り物に搭乗することができるようになっています。戦車戦がメインのステージも多数あるので、戦車目的で購入しても楽しめるはずです。

豆のような戦車との撃ち合い

戦闘機の操縦はかなりカジュアルです。スロットルの上げ下げとマウスルックによる方向転換だけというシンプルさのおかげで、簡単にドッグファイトや爆撃を堪能することができます。個人的には『Battlefiled』の戦闘機は操縦が難しいと感じていたので、これくらいのカジュアルさの方が手軽に爽快感を堪能できて好印象です。特に敵の戦車や上陸用舟艇をピンポイント爆撃で葬った時の快感は格別です。

上陸部隊を爆撃

FPSゲームだけど、歩兵以外の部分もきちんと作り込んであるゲームは珍しいように感じます。歩兵で飽きたら戦車、戦闘機とローテーションさせて遊ぶと飽きずに楽しめるのでおススメです。

まとめ:愛が必要だ

これぞ隠れた名作

愛のこもったFPS。見た目こそ貧相ですが、中身はAAAを凌駕する輝きと愛情に満ちています。人と同じでゲームも外見だけで判断してはいけません。

「リアルなグラフィックが見たいのなら、外に出ればいい。」これは海外のFPS実況者が『BattleBit Remastered』を批評している動画内で放った一言です。近年のFPSゲームはグラフィックだけ一丁前で、肝心の中身はダメダメなものが多いのに対し、『BattleBit Remastered』は中身で勝負をして大人気タイトルの座を勝ち得たことを強烈に皮肉っています。AAAゲームはビジネスの都合も絡んでくるため一様にダメだとは言えないのですが、2042と名の付くFPSを見ているとこの意見には首をヘドバンしたくなります。

そこに愛はあるんか?

と、大作FPSに物申したい。『Easy Red 2』はそんな気にさせてくれる秀作FPSでした。

コメント

  1. ぽいぽい より:

    海外のfps系実況者…だれなのか気になります

    • harawata47 kemiLauncher より:

      『Easy Red 2』を紹介していたのは「BigfryTV」、最後の洒落た皮肉を放っていたのは「jackfrags 」という方ですね。
      いずれもかなり有名な方々で、私もちょくちょく動画を覗いています。
      余談ですが、レトロ系FPS専門チャンネル「ZlimBratSki」氏の動画もニッチなFPSを扱っていて面白いですよ。
      Youtubeの機能にある字幕翻訳を使えば、だいたい何を言っているかが分かります(笑)。

      • poipoi179 より:

        Bigfry結構ゲームディスったりするイメージなので彼が称賛してるのはある種信頼感ありますね…
        jackfragsはAAAタイトルを主に流行りのインディーゲーとかも取り上げる人のイメージ…BF関連の情報は自分もあのチャンネルで得てる感あります。
        ZlimbratSkiは全然知りませんでした。これは結構マニアックなゲームも取り上げていて面白そう。早速チャンネル登録しました(笑)

  2. トーリ・スガーリ より:

    そう、このゲームが体現するのは熱意と愛なんですよね。久しぶりにプレイして痺れたタイトルでした。
    多くの人にはビジュアルがネックでしょうが、ひとたび触れば伝わる魅力があるので、返金前提でいいから一度手に取ってほしいものです(作者も気に入らなかったらSteamの返金システムを勧めてますし)。まあ、そもそも安いですしね。

    懸念があるとすれば、作者がひたすら仕事しまくっているので過労死しないか心配です…。

    • harawata47 kemiLauncher より:

      私の魂のFPSがRisingStorm2なので、Easy Red2には似た雰囲気を感じて痺れちゃいました。値段設定からも作者のただならぬ情熱を感じます。こういったゲームは本当に貴重なので、作者の方には無理のないペースで開発を続けて欲しいですね。

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