CoDの前身『メダル・オブ・オナー 史上最大の作戦』のプレイ感想。

FPS

戦争映画を語る上で『プライベート・ライアン』が外せないように、FPSを語る上でも『Medal of Honor』は絶対に外せません。しかも、どちらも生みの親は同じスティーブン・スピルバーグです。

FPSゲームと映画的演出を組み合わせるという手法を駆使し、後世のビデオゲームに多大な影響を与えた伝説的FPSの3作目『Medal of Honor: Allied Assault』(以下、MoHAA)。簡単にいえば『プライベート・ライアン』のゲーム版です。もちろん、有名なノルマンディー上陸のシーンも再現されています。

元となる『Medal of Honor』シリーズは、有名映画監督のスティーブン・スピルバーグが共同創業者として立ち上げたゲームスタジオ「DreamWorks Interactive」(以下、DWI)が作ったものですが、3作目のMoHAAの開発に関しては2015, Inc.が行っています。

『Medal of Honor: Allied Assault』画像はGOG.comより

ちなみにDWIはPlaystationでリリースした『Medal of Honor』シリーズで成功はしたものの、映画『ジュラシックパーク』のゲーム化である『Trespasser』で大コケしてしまい、スピルバーグがDWIを手放した結果として2000年にElectronic Artsに買収され、EA Los Angeles(以下、EA LA)へとスタジオ名を変更、『Medal of Honor』シリーズの知的財産権もEAのものとなりました。しかし、DWI内で挙がっていた「プライベート・ライアン」プロジェクトと呼ばれたPC版MoHの企画は持ち越され、EAがその制作に乗り出した際には、開発スタジオとしてid Softwareを指名していたことが明らかになっています。しかし、当時のidはMoHの開発には手が回らなかったらしく、代わりに2015, Inc.の名を提案したのことです。元々はQuakeのMOD制作をしていたという2015, Inc.ですが、その腕をActivisionに買われて『SiN: Wages of Sin』の制作などを経た後、idの推薦を受け、PC版MoHもといMoHAAの開発に着手したのです。

元DWIのEA LAはMoHAAの開発には関わらなかったものの、その後の『Medal of Honor』シリーズの開発の中心となりました。2010年にはDanger Close Gamesと名前を変えましたが、2012年にリリースされ不評だった『Medal of Honor: Warfighter』を最後にビデオゲームの開発は事実上終了。残った数名のメンバーがDICEのサブスタジオであるDICE LAの土台を形成し、以降は『Battlefield』シリーズの開発に参加、2021年にはRipple Effect Studiosへとブランドの変更を行っています。

一方、2015, Inc.はMoHAAの成功を受け、EAの開発チームに引き込まれる予定があったものの、チームの目指している方向性※11と反するという考えから、一部のメンバーがEAを離脱し22、Activisionと契約、2002年にInfinity Wardが設立されました。

『Call of Duty』

Infinity Wardはその後、同スタジオの代表作である『Call of Duty』シリーズを生みましたが、『Call of Duty: Modern Warfare 2』のリリース後、報酬についての問題が原因でActivisionと揉めたらしく、2015, Inc.時代からのコアメンバーの一人であるVince Zampella氏が離脱するという事態に。その後Vince Zampella氏はEA助力の元、Respawn Entertainmentを設立し、彼に続いて離脱したInfinity Wardのスタッフも同スタジオに移籍しました。Respawn Entertainmentは『Titanfall』シリーズや『Star Wars Jedi: Fallen Order』などを制作した後に、2020年にはVRゲームの『Medal of Honor: Above and Beyond』を制作しています。

ちなみにVince Zampella氏はDICE LAがRipple Effect Studiosにブランド変更する際に同スタジオのグループゼネラルマネジャーに就任した他、大不評の嵐となった『Battlefield 2042』のリリース後である2021年には『Battlefield』シリーズを統括するリーダーに就任したことも明らかになっています。

…だいぶ前置きが長くなりましたが、『Medal of Honor』や『Call of Duty』を語る上で、これらのスタジオの関係を紐解くというのは非常に大切なことなのです。スピルバーグから生まれたMoHがCoD誕生のキッカケとなり、CoDがTFやApexの誕生のキッカケとなった…。さらにはMoHに携わったメンバーが分裂したことでEAとActivisionの対立、すなわちCoD対BFという構造が生み出され、その結果MoHは虫の息。さらにさらに今ではCoDの生みの親がBFの再建を担っている……。かなりややこしい関係になってはいますが、これらのゲームは切っても切り離せない縁なのです。

今回私がプレイした『メダル・オブ・オナー 史上最大の作戦』(原題『Medal of Honor: Frontline』)は2002年にリリースされたMoHシリーズ4作目。MoHAAの次にリリースされた作品となっていて、開発は元DWIのEA LA。DWI時代を含めると、1999年の『Medal of Honor』から2012年の『Medal of Honor: Warfighter』に至るまで、13年もの間MoHシリーズを支えてきたスタジオで、本作はDWIがEA LAになってから手掛けた初めての作品でもあります。

本作の冒頭はかの有名なノルマンディー上陸作戦から始まります。『プライベート・ライアン』を相当意識した演出が随所に見受けられ、PS2時代のFPSの中ではかなりの迫力があるように感じました。マップの大きさやAIの数など規模はPS2というハードの制約上厳しいものがありますが、全体的な雰囲気はPC版のMoHAAと比較しても遜色のないものとなっています。ここはさすがゲームのパッケージに堂々と「君はノルマンディーで何をみるのか。」と表記されるだけあります。

しかし、本作の最大のウリである上陸シーンは冒頭10分程度で終わってしまい、そこからはただの微妙なシューティングゲームになってしまっているというのが私の正直な感想です。序盤の上陸シーンではたくさんのAIが入り乱れ戦争の苛烈な雰囲気を演出していましたが、以降のステージはほぼ主人公1人での戦いが描かれます。序盤のような映画的演出もほとんどなくなり、1人で黙々とナチスを撃つだけの退屈なシューティングへとなり下がるのです。

その点、CoDは完全にMoHの上位互換といえます。初代『Call of Duty』の制作時には、全篇に渡ってMoHの上陸シーン並みの水準になるよう作られたという話があるくらいです。親であるMoHはアイデンティティともいえる映画的演出が序盤にのみ存在するのに対し、子であるCoDは演出の重要性を理解し、それを全編に満遍なく配置したのです。MoHという作品が持つ強みを誰よりも知っていたのは、親ではなくその子どもだったというのはなんとも皮肉な話です。ただ、終盤のトロッコで地下道を進むステージはディズニーランドのアトラクション感があって好きでした。

また、ゲームプレイ部分に関してもかなり微妙です。FPSとしてのぱっと見の出来は良いのですが、全体的な詰めが甘く、プレイしていてストレスを感じる部分がかなりあります。特にそれを感じるのは敵のアニメーションです。本作は敵のアニメーションが豊富で、撃った箇所に応じて異なるリアクションを取るようになっています。このアニメーション自体は良いのですが、一番の問題は敵を倒したかどうか判別しづらいところです。敵を撃ってもすぐには倒れず、何かしらのリアクションを行うのですが、それが微妙に長い上に演技くさいのです。なかには明らかにやられた風の演技をした後にも関わらず、ケロっと態度を変えて普通に撃ち返してくることもあります。これがなんともイラつきます。『Soldier of Fortune』などの作品は敵を倒した後にゴアアニメーションが再生されるから良いのですが、やられる前にだらだらと長くていかにも演技らしいアニメーションを見させてくるというのは良くないと思います。

レベルデザイン面でもいくつか遊びにくい面があります。本作はFPSでよく見る1本道スタイルが採用されているのですが、設定された目標をクリアしないとゴールできないという仕様になっています。そのため、ゴール地点に到着した後に「目標が未達成です」と表記され、来た道を引き返すという面倒なことがしばしば発生します。また、肝心の目標も分かりづらい部分が多く、破壊目標やインタラクトできる箇所がぱっと見では理解できないため、マップを右往左往することもしばしばです。この点もCoDはかなり優れており、初回プレイでも目標を逃さないような分かりやすい誘導があるため、基本取りこぼすことはありません。仮に取りこぼしても目標未達成の場合は先に進めないようになっているなどの工夫が施されているなど、MoHよりだいぶ親切な印象を受けます。

あと細かい部分ですが、敵の戦車を据付の機銃で破壊する演出はさすがにあり得ないのでは…、と絶句してしまいました。今まで多くのFPSゲームを遊んできましたが、機銃で戦車を破壊したことは一度もありません。これはゲームのバグでもなく、実際に「戦車を機銃で破壊しろ」と出てくるので、開発側が意図した演出なのは間違いないです。それも正面や側面といった装甲部分を狙っても1、2秒で破壊できてしまうというトンデモ設定です。いくらビデオゲームとはいえ、さすがに素人でも分かるウソを盛り込むのは良くないと思います。それとも、実際に機銃で戦車の装甲って貫けるのでしょうか……。詳しい方がいたら是非コメントしてください。

良くも悪くも『Call of Duty』の前身であることがよく分かるFPS。当時としてはかなりよく出来たFPSだったというのは分かりますが、『Call of Duty』という演出面でもゲームプレイ面でも完全上位版が登場してしまった以上、『Medal of Honor』が衰退してしまったのは必然だったということがプレイしていて身に沁みました。

著者一言:『ガールズ&パンツァー』を一気見しました。

  1. ※1(当時、MoHAAを開発していた2015, Inc.は一兵士から見た戦争を描きたかったのに対し、親元であるEAは英雄的な兵士像を描かせたかったということから対立が起きたとか……。その後の元2015, Inc.メンバーで制作された『Call of Duty』では兵士の超人的な活躍ではなく、仲間と共闘する戦場の一兵士というコンセプトが見受けられます。) ↩︎
  2. ※2(ちなみにコアメンバーのほとんどが離脱してしまった2015, Inc.ですが、2004年にはベトナム戦争FPS『Men of Valor』をリリースしました。しかし、評判があまりよろしくなかったせいなのか、以降2015, Inc.がビデオゲームを手掛けることはなくなりました……。) ↩︎

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